新しいMETに慣れろ

2009年10月17日(土)

メトロポリタン歌劇場で、友人と「アイーダ」を見た。満席。戦勝の列を先導する本物の馬が出てくると拍手が起きたり、アイーダの「わが祖国」はオーケストラが終わらないうちにブラボーが出たり、と大変熱狂的な雰囲気だった。アイーダトランペットは舞台に6本も出ていて、オーケストラは熱演だった。
友人によると、新プロダクションの「トスカ」は大変な批判にあっているそうだ。それで思い出した。今シーズンからピーター・ゲルブ総裁のシーズンになったのだ。

ゲルブ氏は、06年末に総裁に就任したが、そのときには、前総裁のもと、08年シーズンまで歌手との契約や演目が決まっていた。3年後の今年から、やっと彼の全面的な指揮下でシーズンがオープン。彼の力量が問われる。
METの「トスカ」は、東京引越公演も含めて3回みたことがある。
装置は、フランコ・ゼフィレッリ氏の手による、豪華絢爛、本物の教会かあるいは邸宅かとみまがうもので、幕が開いたとたんに細部にまでこだわった舞台に圧倒される。ゼフィレッリ氏は、故ルキノ・ビスコンティ監督の映像監督をつとめ、美しく華麗で退廃的な映像作りに定評がある人。

(Zeffirelliのトスカ1幕)
ゲルブ氏の新「トスカ」はこの装置をやめて、新たにリュック・ボンディ監督を連れてきて、作り変えた。舞台はミニマムな現代的もので(教会の中にドラム缶があるらしい)、演出も手を入れた。これが伝統的なトスカをあがめる人から大変な批判にあい、幕間にブーイングも起きたそうだ。
ゲルブ氏がこうした冒険をするのは、曰く、「オペラも初演当時は、ロックやポップと同じ流行の音楽だった。METの観客が高齢化し、彼らの好みにあった伝統的なオペラばかりやっていては、若者が来なくなって、しまいには収入が減ってしまう。若い人に来てもらうには、新たなオペラの解釈が必要」。
ゲルブ氏は、08年シーズンまで何もしなかったのではなく、オペラのハイビジョン放送をしたり、タイムズ・スクエアやリンカン・センターで公演を大画面で無料で見せたり、地下鉄に初めて広告を出したりと、次々に新たな試みを実践し、ニューヨーク・タイムズによれば、若い観客を増やすのに成功している。
個人的にはゲルブ氏を応援したい。ゼフィレッリの装置もなつかしいが。
http://artsbeat.blogs.nytimes.com/2009/10/08/the-opera-goes-to-the-library-and-the-talk-turns-to-what-else-tosca/(ニューヨーク・タイムズ。トスカをめぐる論争について)
ゲルブ氏に会ったことがあるが、父親はニューヨーク・タイムズの文化面評論家、母親はバイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツの姪というハイブリッドだ。もちろんユダヤ系。マイクロ・マネージャーらしく、執務室の壁にハイビジョンテレビがあり、METの舞台を24時間映している。