チェルシー結婚式、取材記

2010年7月30日(土)

週末で、レンタカーが残っていなくて借りられない。ニューヨークの人は車を持たないからだ。
そこで、カープールサービスで評判のZipcarを使うことに。ところが、どの車も細かい時間に区切ってレンタルされていて、丸1日借りられるのがなかなか見つからない。やっとあったのが、家からタクシーで20分ほどかかって行く場所。やっと車を見つけて、ラインベック(人口3500人)を目指す。
朝 7時半出発。カメラマンが運転し、カーナビがないため、グーグルマップをプリントアウトしてナビゲートして北上したが、どういうわけか、途中からマンハッタンに、つまり南に戻っている事が判明。iPhoneのグーグルマップに頼ることに切り換えて(現在位置がGPSで分かるため)、仕切りなおし。直接ラインベックに行く高速道路がなくて、頻繁にパークウェイを切り換えながら行くため、ナビゲーター泣かせ。出口を逃したりして、Uターンすること数回、車内が段々険悪になる。
グーグルによると、2時間でいけるところ3時間かかって、やっとラインベックに到着。お金持ちばかりが住む美しいリゾート地。披露宴が開かれるとされる住所に行くと、緑豊かな芝生が広がる門柱そばに、州警察が車を並べている。「メディアはどこに行ったらいいですか?」としらばっくれて聞いたが「すべては秘密です。街の中にあるメディア・プールで他の記者に聞いてください」。

(撮影を許された、披露宴から最も近い場所。何も見えない)
少し走っているうちに、披露宴用とみられるケータリングの車などが一般の民家の前を使って、チェックインしているのを発見。車を止めてケイタラーの列に並び、「ケイコ・ツヤマで登録があるはずですけど」と、またしらばっくれて聞くと、何百枚ものケータラーのIDバッジを持っている地元警察官は、親切にTとKのバッジをすべてチェックしてくれた。
この警察官が私のバッジ探しに必死になっているうちに、背後ではカメラマンが、ケータリングの車の社名や、路上の州警察官を望遠で撮影。
当然バッジがあるはずはない。「どうしたらいいか」と聞くと、地元警察官、親切心から、あっさりイベント会社の担当者の携帯電話を教えてくれた。
「日本から来たんです。披露宴を取材するのにメディアはどこに行ったらいいですか?」と電話してみる。長い沈黙。。。「何の披露宴のことを聞いているんですか?」「チェルシークリントンさんの披露宴です。今、披露宴の場所の近くにいます」「どうして私の番号が分かったんですか」「関係者が教えてくれました」「私はあなたが言ってることが理解できません。私たちはあなたが言うイベントと何ら関係はありません」。電話を切られた。もう一度電話すると、また切られた。
あきらめてもう少し走ると、ABCラジオの車が止まっていて、近くの家の前では、10歳ぐらいの男の子が、メディアをターゲットにレモネードを一杯50セントで売っている。ABCラジオの女性アンカーに「どこに行ったらいい?どうしてクリントンはこんなに人気があるの?」と聞くと、「実は私も今来たばかりで、誰かに聞こうと思っていたのよ。なんでクリントン一家が人気があるか?私も知りたいわ」。
すると、赤いTシャツの男性がカメラを手に近寄ってきて、女性アンカーと私にポーズをとってくれるか、と尋ねた。「街のフリーランスのカメラマンで、地元紙のために、取材に来ているメディアの人の写真を中心に撮影しているから、お願いしたい」。なるほど、メディアなど滅多に来ない田舎の街だから、そういう切り口もある。
このカメラマン、普段は電話会社に勤めていて、このスペシャルな日はカメラマンに。トッドといって、一日中世話になった。披露宴が始まってしまってから、中に入れないため何もすることがなく、車を流していると、彼がやってきて「君らは大きなレンズを持っているから、ハドソン川沿いのラインクリフの駅に行って、そこから披露宴テントの後ろ側が撮影できるはずだ。行ってみて」と教えてくれた。
ラインクリフというハドソン川沿いの駅に行って、駐車場の北端に行き、金網ごしに北のほうをみると、確かにテントがあった。披露宴の場所は駅から2キロはなれたところ。望遠レンズでみると、シークレットサービスらしき人たちが数人ぶらついている。撮影していると、ニューヨークのタブロイド紙デイリー・ニューズの一行と、ブロガーがやってきて撮影に加わった。

(披露宴テントの後ろ側。2キロ離れた駅の駐車場から。線路脇には州警察。撮影カメラが入るのを警戒している)
ここに行ったお陰で、披露宴の場所がいかにふさわしいロマンチックな場所か分かった。ハドソン川沿いに夕焼けがみえて、暗くなってからはお祝いの花火が上がるのを、高台から一望できる場所だ。
車のラジオで、結婚式の費用について専門家が「200万ドルから500万ドルと噂されています」と話していた。かなりアバウトな話だが、大金だ。
招待客は、街のホテルに集合して着替えをし、リムジンバスに乗って移動することが判明。そのバスの乗り場に、メディアと野次馬約100人が殺到した。テレビ局も長いレンズを持ったカメラマンも野次馬も見事に混じり合って、炎天下の中、シャッターを切りまくっている。しかし、と私は思った。オプラ・ウィンフリーやスティービー・ワンダーなど、招待されたと報道されたセレブが乗り合いバスなどに乗っていくだろうか。カメラマンを残して、街の別のホテルに。

(披露宴に向かうためバスに乗る招待客たち)
しかし、セレブにぶら下がるという収穫はなく、炎天下で時間だけが過ぎていく。
この日の収穫はオルブライト元国務長官を追いかけただけだった。あとは、日本人に馴染みが薄いが、タッド・ダンソンという俳優の真後ろで、CNNがインタビューをしているのを聞いてメモを取った。チェルシーは素晴らしい人物だと語った。ダンソンが背が高いので、CNNにはうつらなかったはずだ。
オルブライト女史はいつも、カルティエなどの大きなブローチやイヤリングをしている印象が強かったが、この日は何もしていないし、ほとんどノーメークだった。もちろん披露宴には着替えるのだろうが。
このほかの収穫といえば、マンハッタンのローカルニュース局「NY1」のベテラン芸能担当記者ジョージ・ウィプルと話したことだ。テレビでみるゲジゲジ眉が気になっていたが、実物はなかなかの紳士だ。
「スクープはとれましたか?」「本物のスクープというのは、今日はないよ。珍しく完全非公開の披露宴だしね」「どうしてラインベックなんですか?」「ここは、オールドマネーの場所だよ。独立戦争前から住んでる家族なんているんだからね」
と話していると、通行人がジョージに「あんた、どこの局?ひょっとして有名人?」と聞いてきた。ジョージは「ローカル局の記者だよ、ローカル。ローカル」。確かにマンハッタンを出ると、彼のことを知る人はいなくなるわけだ。