高橋大輔へ、ニューヨークより

2009年2月18日(木)

高橋大輔。金メダルをじゃんじゃん取っている米国にいて、銅メダルで五輪初のメダルというのが、どんなに重みがあるのか、米国人には分からないだろう。
いや、男子(女子)フィギュアでメダルを取ることの大変さは、普通の日本人にも分からないだろう。
大体、フィギュアのように、上位に日本人選手がいなければ、米国のテレビで日本人選手の活躍がみられるチャンスは皆無なのだ。
高橋は、4回転に失敗したが、①そのほかのジャンプを基本に忠実に飛んだ②感情がこもっていた―というのが勝因だ、と信じている。
NBCの女性コメンテーターが「基本に勝ったのよね」とぽろっと言った。
しかし、基本、がどんなに大変か、YouTubeをみれば分かる。浅田真央が飛んだトリプルアクセルが「90度で着地していなくて、飛びすぎ」という批判のビデオがあるほどだからだ。
要とされる「トリプルアクセル(3回転半)」は、踏み切った軸から正確に90度の地点に着地しなければ、認定されない。足りなくても、超えても、だめなのだ。
4回転に成功したトリノ五輪金メダルのプルシェンコ選手(ロシア)は、2度目の優勝に夢中で、ジャンプに質が伴わなかった。カリスマ性はあり、スピードもすごくあった。
しかし、NBCのコメンテーターは、GOE、GOEと言いつづけた。「結果は素晴らしい(great on execution)」という意味だ。着地したものの、ほぼすべてのジャンプが飛んでいる最中に軸が外側にずれて、着氷できないのではと、ひやっとする、というものばかりだった。
コメンテーターは「やつは猫だ!」と言った。どんなに姿勢がくずれても、着氷するという意味だ。見ていても美しく、スムースに着氷し、その後の姿も美しい、という金メダルのライザチェクや、高橋とは異なり、力づくでジャンプを成功させていた。それが「金」を逃した理由となった。その審査は、五輪審査員の信頼性を高めたともいえる。
プルシェンコに2度目の金というのもドラマだが、高橋が銅、そしてすべてのエレメントを正確にこなすという基本に忠実で、感動も与えたライサチェク選手が金、という結果に、とてもとても安心した、というのは私だけだろうか。