新聞と雑誌にできること

2009年7月31日(金)

How do you like me now?は、ニューヨーク・タイムズで1ページ半にわたる長文記事(29日)だが、読み入ってしまった。

The Emperor’s Old Clothesというファッションについてのブログが、歯に衣着せぬ業界への切り込み方で、関係者に話題を呼んでいる。
ブロガーの名前はフラフ・チャンス。彼は最近のデザイナーたちが、以前とは異なり、ルックスがよければ、そして特定の人々とコネがあれば、実力がなくてものし上がることを暴露。登竜門となる賞も、ある程度結果が決まっている節があるという。
タイムズは、このフラフ・チャンスの正体が、ベテラン・デザイナーのエリック・ガスキンスという人物であることを明らかにし、なぜ彼がブログをしているかを解き明かす。
エリックは、多くのデザイナーの下で地道に修行し、ニューヨークの目抜き通りに小さな仕立て屋を開き、80年代にはコスモポリタン誌の表紙を飾るドレスを作る。女優らが彼のドレスを授賞式に着るようになり、ビジネスは好調だった。しかし、彼は一切、表に出ることはなく、デザインと技術のみで勝負をしていた。インタビューに来たファッション誌記者は、彼が黒人と知って、驚くほどだった。
ところが、今回の不況でビジネスはしぼみ、とうとう廃業。
本でも出そうか、と友人に相談したところ、まずブログをしてみて、反響をみてみたら、と言われて、自分の猫の名前でブロガーになった。
彼はもともと人の批判もしない、「虫も殺さぬ」人柄だったが、ブログでは、有名デザイナーもばっさばっさと叩きのめす。しかし、内部関係者の告発であるだけに、儲からないブログは盛況という、とても皮肉な話だ。

(くつろぐロザリー)

もう一つ、楽しく読んだのはDallas Observer紙のRadio Silence。これもタブロイドで6ページの長文調査記事。
ダラスの元ショック・ジョック(=リスナーの怒りや顰蹙をかうような過激なラジオ・ジョッキー)、ラス・マーティンという人物について。
彼は現在、元フィアンセを殴り、蹴り、髪の毛を引っ張ったとして、告発され、保護観察のもとに置かれ、ラジオからも引き離された。
記事は、彼が、ただの人になるまでの間、いかにウィスキーと金におぼれ、ラジオのスタッフを動物のように扱い、それでも、いかにしてラジオ局が彼を守ろうとしたか、という話を、幅広い関係者の証言を積み上げて書いている。

この2本の記事を読んで、これが新聞や雑誌にしかできないことだな、と感じた。この長さ、豊富な事実の量からみると、ラジオ、テレビには絶対にできない。
2本とも、二人の人物の半生についての洞察から、彼らがいる業界内情までよく分かる。しかも、2本とも、それぞれ、タイムズと、ダラス・オブザーバーにしか取材できないローカルな話だが、普遍性もあり、外国人の私が読んでも面白い。
目の付け所から、事実の集め方、読ませ方、など、きのう今日、ブログを書き始めた、という人にはできない業だ。
横並びのゼネラルなニュースだけではなくて、こういう記事が、新聞や雑誌の強み、ではないだろうか。

(テキサスのカウボーイ・ブーツ)